【JSEが示すアジア育成の可能性】タイの国際大会がJクラブから注目されている理由

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タイでアジア各国のユース層が参加する国際サッカー大会がある。2022年に設立されたJSE Thailand が主催し、アジアの子どもたちがサッカーを通して出会える舞台づくりを進めている。ここ1年で、15以上の日本のJクラブや街クラブが参加するようになった。

1つの国に、これほど多くの日本クラブが遠征に行くことはほぼない。従来、育成年代の海外遠征といえばヨーロッパが主流だった。だが、実際に15以上のクラブがタイを選んでいる。

なぜ今、タイなのか。JSE Thailand創設者のウィシサック・スリヤスリ氏(通称TAKA)に話を聞いた。

JSE Thailand とは

JSE Thailandは2022年に設立された国際ユースサッカー大会を主催する組織だ。創設者のTAKAさんは、タイで県代表としてサッカーをしていたプレーヤーであり、本業は建築家。実は、ミシュランを獲得したタイ料理レストランも経営している。

「約10年前、私は建築家として海外で働く機会があり、多くの国を訪れました。しかし、どこへ行くときも、私は必ずサッカーシューズを持って行きました」

訪れた各地で現地の選手たちとサッカーをする。その経験のおかげで世界中にサッカーの友人ができた。タイに戻ってきたとき、TAKAさんは考えた。

「自分が愛しているサッカーのために何かできることがあるのではないかと。そして、アジアにはまだ国際ユースサッカーの舞台を作る大きな可能性があると感じたんです」

JSEの理念:Jigsaw-Sport-Evolution

JSEは3つの言葉からできている。「Jigsaw(ジグソー)」「Sport(スポーツ)」「Evolution(進化)」だ。

「ジグソーパズルのように、どのピースも同じように大切で、一つでも欠けると完成しません。サッカーも同じです。選手、コーチ、クラブ、大会を運営する人たち。すべての人が大きなサッカーの世界を作る一部だと考えています」

TAKAさんが考えるサッカーの本質は、競技ではなく、より広い価値を持つツールだという。

「私たちはサッカーは単なる競技ではなく、学び、文化交流、そして国を越えた人と人とのつながりを生み出す、大切なツールだと考えています」

現在、JSEの大会には世界11カ国以上のチームが参加している。日本・中国・韓国のようなサッカーの強豪国だけでなく、モルディブ、インド、ネパール、オーストラリアなども参加しており、大会は非常に多様性のあるものになっている。

参加するJクラブの実績

2025年は清水エスパルス、鹿島アントラーズ、セレッソ大阪、サンフレッチェ広島をはじめとした日本のクラブのアカデミーやスクール、街クラブのタイ遠征が集中した。中国のZhejiang FC、Shanghai Shenhua、Shanghai Port、マレーシアのJohor Darul Ta’zimなど、アジアの強豪クラブも何度も参加している。

これほど多くのクラブが同じ国の大会に集中する理由は何か。TAKAさんはこう分析する。

「参加されるクラブの方々は、JSEという大会自体のクオリティーに期待しているのではないでしょうか。競技レベルだけでなく、大会の雰囲気も重要です。JSEはすべてのチームをフレンドリーに迎えることを大切にし、サッカーをみんなで楽しめる環境を作りたいと思っています。私たちはいつも笑顔でチームのみなさんに接することを心がけています。」

現地で起こる選手たちの変化

「タイに着いた最初の1日目は、選手たちはまるで日本にいるようなふわふわした感じです。でも2~3日経つと変わります。『ここは海外なんだ』というスイッチが切り替わる。その適応の過程こそが成長です。現場にいる私としては、その変化をビシビシと感じています」

実際に参加した監督からも、タイでの変化について印象的なコメントをしている。

「段々と、日々使う言葉の質が変わっていった」 「知らない環境だからこそ本気でぶつかるようになっていた」 「普段の日本では出てこないものが引き出された場所だった」

成長を促進する環境要因

このような変化が起きるのには、明確な理由がある。

気候への適応

「日本のコーチからよく聞く話の一つがタイの気候です。タイはとても暑い国で、特にある季節はかなり厳しい環境になります。日本のユース選手にとってこれは慣れていない経験です。しかし将来、選手は世界中で試合をする可能性があり、それぞれの国には違う気候や環境があります。そのため選手は試合前の準備、休息、試合中の適応などを学ぶ必要があります。このような経験は、選手をピッチ内外で成長させると思います」

高いレベルの対戦相手

さらに対戦相手のレベルも重要だ。

「JSEに参加するタイのクラブはBuriram United、Chonburi FC、Muangthong United、Ratchaburi FCなど、タイのトップクラブです。日本チームはこれらのクラブと対戦することで、非常にレベルの高い試合を経験できます。また、タイ、中国、マレーシアなど様々な国のチームが参加しているため、選手たちは多様なサッカースタイルを体験できます。多国籍の強いチームと対戦することで、ユース選手は大きく成長できると思います」

日本の選手の特性と成長プロセス

TAKAさんが見た日本の選手たちの特徴は、他国との大きな違いだった。

「日本から参加されるチーム、まず第一印象としては、皆さん非常に真面目です。どのチームも一生懸命プレーしているなという強い印象があります。日本の各チームの運営自体がとてもシステマチックで規律が正しいなと感じています」

だが、その「真面目さ」と「システマチック」さが、タイでの経験を通じて変わる。これが実は、最も重要な成長プロセスなのだ。

「そのシステマチックな部分というのは必ずしも通用するものではないということを、実際にタイや他国のチームと試合することによって選手たちも感じ取っていきます。つまり、『こうやればうまくいく』という日本での経験が、通用しない環境に放り込まれる。その過程で、選手たちは新しい適応力を身につけるんです。これは日本の選手たちにとって良い経験になっているのではないかと思っております」

クラブ内への波及効果

複数回参加するクラブが増えている理由は、単なる試合経験だけではない。

実際に大会に参加した選手たちが日本に戻り、その経験の価値を共有する。翌年、別のカテゴリーが参加する。こうして、タイでの経験がクラブ全体の「育成文化」になっていくのだ。

「参加されたクラブの方々は、実際に大会に参加した子供たちが日本に戻ったりして、みんなに共有する。で、次世代の子たちが翌年に参加する。そういったいい流れが出来上がっているのじゃないかなと思っております」

タイの課題と日本チームの役割

一方、タイ選手にとっても、日本チームとの対戦は大きな価値がある。

「タイではよく『タイの子どもは若いときは強い』と言われます。ユース年代ではタイのチームが良い結果を出すことも多いです。しかし年齢が上がると、国際レベルでは難しくなることもあります。理由の一つは、国内だけで競争していると、強いチームにとって十分なチャレンジが少なくなる可能性があるからです。だからこそ、海外の強いチームと戦うことは新しいモチベーションになります。選手たちは、より高い基準を知ることができます」

大会運営への想い

TAKAさんは、現状に満足していない。毎年、大会をより良くしていくための工夫を重ねている。

「もちろんJSEの運営側も、ただじっとしているだけではなくて、毎年毎年さらにいい大会を運営できるように、日々さらに何かできないかなっていうのは常に探し続けています」

気候への対応、大会の設計、現地での環境づくり。ピッチ外での多言語環境、生活管理。すべてが選手たちの成長を考えて設計されている。

「大会だけではなく、大会の外でも皆さん常に緊張感を持って行動できるような環境を作っています。多国籍の言葉が飛び交う環境で、自分の身は自分で守ることを学ぶ。食事管理、洗濯。ピッチ内だけではなく、ピッチ外も規律正しく生活できるように気を使って運営しています」

建築家としての視点を活かし、大会の構造やシステムを設計しているというTAKAさん。さらに、タイ文化、ホスピタリティ、タイ料理の魅力を通して、JSEに来るすべての人が温かさを感じ、また戻ってきたいと思えるような大会を作りたいと考えている。

 

アジア育成の新しいパイプライン

TAKAさんの目は、さらに遠い未来を見ている。

「将来は、長期ユース交換プログラムを実現したいと思っています。例えば、タイの選手が2~3年間日本で生活しながらサッカーを学ぶというプログラムです。そこで規律、トレーニングの基準、プロフェッショナリズムを学び、タイに戻ってタイサッカーの発展に貢献してほしいと思います」

すでにその芽は出ている。

「Wongsa はFC Seoul U-18と契約しました。これはKリーグで得点王になったタイのレジェンド・Piyapong Pue-on以来の大きなニュースです。また、Phoom San はKashima Gakuen のゴールキーパーとして日本の高校サッカーで注目されています。さらに、Maicon はブラジル出身ですがタイで育った選手で、わずか16歳でBayern Munich のユースシステムに入りました。これらのストーリーは、サッカーが世界中でつながっているスポーツだということを示していると思います」

投資対効果のある環境

こうした変化の実績が、15以上のJクラブの複数回参加につながっている。短期間の遠征であっても、確実な成長が期待できる環境。気候、対戦相手のレベル、多国籍の環境。これらが短期間で選手たちを変える。その変化が本物だからこそ、クラブは何度も来る。

それが、タイという選択肢の本質なのだ。クラブの育成戦略は、今、タイを抜きに考えられない。

JSEについて

JSE Thailand
創設:2022年
代表:ウィシサック・スリヤスリ氏(通称TAKA)
HP:https://www.facebook.com/JSEThailand/

JSE主催大会への参加クラブ一覧(抜粋)

北海道コンサドーレ札幌、鹿島アントラーズ、FC東京、横浜F・マリノス、川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、清水エスパルス、セレッソ大阪、サンフレッチェ広島、アビスパ福岡、北ギラヴァンツ北九州、ロアッソ熊本、ラソティーロFC、リライズ長崎ほか

 

◉TAKAさんのストーリーをもっと読む→JSE創設者TAKAさんインタビュー
◉メディアに掲載されました→15のJクラブが選んだタイ遠征。大会創設者がその理由を解説

 

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