【インタビュー】イタリア女子サッカー 池口響子

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「自分を愛してあげよう、と思えるようになった」

― 池口響子、イタリアで見つけた本当の強さ

 

泣きながら行ったサッカーの初日

サッカーを始めたのは7歳のとき。きっかけは、2人の兄だった。

「幼稚園の頃は暇さえあればテレビを見てポテトチップスを食べる生活で(笑)。兄がサッカーをやっていて、末っ子だったから土日は兄の試合についていくしかなくて、親に無理やり入れられた感じですね」

しかしその日、彼女は泣いた。「行きたくない、やりたくない」と言いながら連れていかれたその場所で、20分後には「このチームのユニフォーム買ってね」と親に伝えていたという。本人は覚えていないが、サッカーとの出会いはそのくらい鮮烈だった。

小学4年生で転機が訪れる。元日本代表選手が指導するスクールに入り、「鬼のような」練習メニューをこなす日々が始まった。

「できないんだったら、そこまで本気でサッカーやんなくていいと思うっていう感じのコーチで。負けたくなかったですね、その言葉に。帰ってきて泣いてた時もあったらしいけど、親にやめる?って聞かれたら、いや、やめないって。そこからもう月曜から日曜まで、サッカー漬けでした」

 

キャプテンという壁、そして言葉の力

中学ではクラブチームのキャプテンを務めた。しかしそこで、初めて「人を動かすことの難しさ」にぶつかる。

「負けず嫌いが強くて、試合中に走ってくれない子に、やる気がないなら交換してくれって言ってしまったり。キャプテンなので言わないとと思うところもあって、強い言葉のまま伝えてしまうこともありました。そうするとお互いに嫌な気持ちになってしまって、上手く行かないなぁって感じましたね」

ただ、この経験から得た学びは大きかった。

「人は動かせないんだって。もっと走ったらいいプレーになったと思うよ、っていう声かけだったら、その子も走ってたかもしれない。言葉って大事だなって思いましたね」

高校は静岡の強豪・藤枝順心へ。セレクションとも知らずに参加した体験練習で合格し、「すごいところに来てしまった」と思うほど、周囲は世代別代表の選手ばかりだった。

そして高校2年の冬、人生最初の大きな挫折が訪れる。大舞台のスタメンで、開始40秒で前十字靭帯断裂。

「外に出てトレーナーに確認されて、ちょっと涙が出てきたんですけど、グラウンド見なって言われてまだみんな戦ってるよって言われた時に、いやそうだよなって。もうそこのグラウンドに出るまでの間で涙を引っ込めて、みんなで頑張ろうってなりましたね」

復帰までの1年間、彼女はチームの分析をして仲間に伝え、笑顔で声をかけ続けた。

「自分が今できることって何だろうと思った時に、前向きな声をかけること。怪我をしててもずっと笑って、いい雰囲気をチームにもたらすことしかできないと思って。言霊を信じてるタイプなので、間に合うって言い続ければ間に合うって思うし」

そして翌年の選手権。彼女はピッチに立ち、ゴールを決め、チームを優勝へ導いた。

 

サッカーが嫌いになった日

大学でも前十字を断裂し、複雑な膝の怪我を経験。それでも全国大会に間に合わせ、出場を果たした。しかし卒業後に入ったチームで、彼女は初めてサッカーが嫌いになる。

「ちょっと周りとも上手くいかないなってことがありました。難しいなって。もうサッカーやめたくなって。ボールを見るのも嫌で、グラウンドにも行きたくなくて」

大学卒業後の6月から10月まで、バイトもせず釣りやソフトボール、バレーボールに明け暮れた。そんな時、母からこう言われた。

「何年もやってきたサッカーを、大嫌いで終わりにしていいの?って。ハッとしましたね。自分はサッカー人生を楽しんでやってきたのに、大嫌いのままで終わるのは違うなって」

その言葉が、イタリア行きを決意させた。「言葉が通じない場所なら、嫌なことも聞こえないし、サッカーだけに没頭できる」。それが最初の動機だった。

 

 

イタリアで気づいた、自分を愛するということ

渡伊2年目を迎えた今、池口選手はチームに欠かせない存在となっている。フィジカルとタクティクスが問われるセリエBで、彼女が武器にするのは「考える力」と「合わせる力」だ。

「元から持ってる身体能力は全然違う。だけど日本人の良さもあって。ここにパスが来たらここに来るかなってずっと考えながらできる。自分の強みを聞かれたら、誰にでも合わせることができる、って伝えています。この子にはこのパスが合うな、こういうサポートが必要だなって、めちゃめちゃ考えるようになって」

チームメートからは「あなたがいると雰囲気が明るくなる」と言われる。そしてイタリアでの生活は、彼女自身の内面にも変化をもたらした。

「チームメートに、褒められた時に『いやいや私そんなじゃないから』って言ったら、なんで自分のことを否定するの?って怒られるんですよ。あなたの人生を否定してるって。それがめちゃめちゃ言われる。通訳使ってまで徹底的に(笑)」

イタリアの人たちは、自分自身を愛することが当たり前だと言う。

「みんな自分軸があって、自分が大好きだから、みんなのこともやろうよっていう感じで。日本では自分が好きすぎると自分勝手って言われたりするけど、自分を愛してるからこそ、みんなも大切にできるんだなって。こっちに来て、自分を愛してあげようって思えることが増えました」

 

挑戦を迷うあなたへ

海外でのプレーに価値はあるのか。そう問うと、池口選手はこう答えた。

「海外に来て、こういう価値があるから行った方がいいとは言えなくて。自分が何を受け取って、どんな価値を生み出すかが大切だと思っています。来てよかったって思うことに、もう価値があるんだろうなって」

サッカーが嫌いになった時期があった。3度前十字靭帯を切った。それでも彼女は今、「もう最高です」とイタリアでの日々を語る。

正解は、行ってみた先にしかない。「無理」と決めているのは、まだ行っていない自分だ。

【プロフィール】
池口響子(いけぐち・きょうこ)
生年月日:2001年4月9日
出身:埼玉県
所属:ResDonnaRoma(イタリア・セリエB)
特徴:キック精度の高さが武器

 

 

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