タイリーグ。昇格の本当の難しさ

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今まで幾度となく昇格のチャンスは訪れたが、井上哲郎はことごとくその念願は果たせずにいた。60以上のチームで争われるタイのDivision2(2016シーズンまで)はその地域で上位に入り、昇格プレーオフに出場するだけでも難関と言われる。そこを勝ち抜き昇格を果たすチームに求められるものは実力だけではとても足りない。

それではと、自分が活躍して上位カテゴリーのクラブからオファーがかかるかと言えばそれはさらに難しいものとなる。毎年、国外から数え切れないほどの選手がプレーの場を求めてやってくるタイにおいて、ほとんどのクラブは上位クラブから外国人選手を獲得する傾向にある。トップリーグであれば他のチームで目立った活躍を見せた選手や、他国の上位リーグから。

下部リーグの選手が上位リーグに引き抜かれることは余程のことがなければ難しいというのが現実だ。

昇格プレーオフでは敗れ、ボランチながらに得点を重ね、アピールを続けたが上位リーグからのオファーは届かなかった。

タイリーグは1部から4部がプロクラブとして運営されているが、2部と3部には大きな壁があると言えるだろう。そこでプレーする難しさも、外国人選手の質もそこからガクっと違いが出てくる。

その難しさを一番肌で感じてきたのが今年T3のTrang FCでプレーする井上哲郎だろう。

タイでのプレーすることの難しさ。もどかしさ。厳しさを感じるたびに井上は迷いながらも挑戦を続けてきた。

自分はもっと高いレベルで戦えるはずだ。試合の中で感じるジレンマから周りのタイ人選手とうまく接することができなかったこともあったという。しかし、目標のために何をするべきかを常に考え続けた。

「タイに来た当初はうまく環境に馴染むことができず、周りに自分の感情をぶつけてしまうことが多かったですね。でも今はそれを自分の中でうまく消化できるようになっているのかなと。その影響はピッチの中でも大きく感じます。周りからも信頼されるようになり、結果にも繋がるようになりました。自分はタイでプレーしているので、その中で周りに適応するということは必ず必要なことだと感じています。」

タイで5シーズン目を戦う井上は

「一番充実してプレーできている」と話す。

実際に井上の試合を見ると、的確なパスや激しいディフェンス、打点の高いヘディングはもちろん、90分間味方選手を鼓舞し続ける姿が何より印象に残った。

必要な時には声を張り上げて檄を飛ばし、味方選手と密に話合う姿もスタンドから見て取れた。

現在、Trang FCは5位。しかし、1位とは2ポイント差、念願の昇格も視界にしっかりと捉えている。

目標を達成するために何をするべきか、それは技術や体力面の向上だけではない。それを経験から理解し、己の中で磨いてきた井上は今まで以上にピッチの中で存在感を放っている。その姿を見ると、今年こそ彼の念願が果たされるのではないかと強く感じる。